項目 木曽谷層 きそだにそう
関連項目 凡例解説>第四紀堆積層>木曽川流域>木曽谷層
地点 各務原市鵜沼大伊木町 大牧団地裏
見学地点の位置・概要    各務原市の木曽川河畔にそびえる伊木山(標高173m)の西側には、陵南小学校および大牧団地が周囲よりもやや高い台地の上にある。この台地は、伊木山と同じように美濃帯堆積岩類が作る小丘を平坦に削って作られたもので、各務原台地から木曽川へ向かって半島のように突き出た地形をなしている。県道95号芋島鵜沼線から陵南小学校へ向かう市道を南進し、さらに大牧団地の西側に沿って耕作地の中の道を木曽川の河川敷へと向かい、団地の南西端を過ぎて栗林の広がる平坦な場所へ下りはじめると、その両側の高さ1~2mほどの崖に木曽谷層が見られる。
見学地点の解説    崖の表面はコケ等に覆われており、少し削ると粗い砂粒からなる砂層があらわれ、そこには何本もの筋状の線が水平方向に平行にあるいは斜めに交わって見られる。前者を平行ラミナ(葉理)、後者を斜交ラミナ(葉理)とそれぞれ呼び、いずれも砂粒の粒径が粗いものから細かいものへと規則的に並ぶことでできた模様である。これは水の流れの速さと砂粒の大きさとの兼ね合いで形成され、水流のある環境での堆積物であることを示している。これらの模様を強調するように見えるオレンジ色の粒は新期御嶽火山起源の軽石であり、層をなしてまとまって入っていたり、砂の中に単独に入っていることもあり、砂粒とともに水流で運ばれてきたものである。
ジオの視点    木曽谷層は、新期御嶽火山の前半にあたる継母岳火山群の活動により発生した岩屑なだれおよび泥流が当時の木曽川沿いに流れ下り、そこに埋積した堆積物である。各務原台地はこの堆積物で作られており、各務原層とも呼ばれる。その時期(13万年~7万年前ごろ)は最後の間氷期にあたり、温暖な気候のもとで氷床が融けて海水面がかなり上昇し、海が各務原台地のすぐ南まで入り込んでいた。含まれるオレンジ色の軽石は新期御嶽火山の初期に噴出したPm-3と呼ばれる軽石で、それらが砕屑物とともに当時の木曽川によって運ばれたことで木曽谷層中に含まれている。
写真 各務原市鵜沼大伊木町の大牧団地裏に露出する木曽谷層
(撮影:小井土由光)
写真 オレンジ色の軽石を含む木曽谷層
(撮影:小井土由光)
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
新期御嶽火山
御嶽火山において古期御嶽火山の活動終了後に約30万年にわたる長い静穏期を経て始まった活動で、現在の御嶽火山の中央部を構成する火山体を形成した。それらは活動の前半に形成された継母岳火山群と後半に形成された摩利支天火山群に分けられ、両者はほぼ連続的に起こったようであるが、噴出物の性質は明瞭に異なる。これらの活動では新期御嶽テフラ層と呼ばれる大量の降下火砕堆積物を噴出しており、有効な指標となる広域テフラとして中部・関東地方に広く火山灰層を飛ばしており、隣接する乗鞍火山がおもに溶岩を流出させていることと対照的な活動をしている。なお、その活動経過については、山麓部での降下火砕堆積物の層序解析などから異なる見解も出されている。
継母岳火山群
新期御嶽火山の前半に活動した火山群で、莫大な量の流紋岩質軽石の噴出で始まり、それにともない古期御嶽火山の山体中央部が陥没してカルデラが形成され、そこを埋めるように標高2900mほど、推定体積約50km3の山体が形成された。それらはおもに流紋岩質~デイサイト質の厚い溶岩や火砕流堆積物などで構成されており、現在は継母岳(標高2867m)からその西方へ連なる県境尾根周辺に残されている。この時期に噴出した火砕物が大量に木曽川流域に供給されて形成された堆積物が木曽谷層であり、大量の軽石が含まれる砂層として中~下流域で容易に識別されている。
岩屑なだれ
水蒸気や空気などの気体と岩塊など固体破片の混合物が大規模に(体積で106m3以上 )高速で(速いもので150m/秒)斜面を流れ下る現象で、火山現象としてもみられるが、地震動で山体が崩壊して起こることもある。火砕流に似た現象であるが、火砕流はマグマ起源の物質を主体とする高温の流れであるのに対して、これは既存の物質からなる低温の流れである。気体が水に代わると泥流あるいは土石流となり、岩屑なだれが途中から河川の水を取り込んで泥流・土石流になることはよくある。
泥流
礫、砂、泥などの砕屑物が水と混ざって流れ下る場合に、泥質分を多く含み、粗粒の礫質分の少ない流れを指す。礫質分が多いと土石流と呼ぶことがあるが、明確な境界があるわけではない。火山砕屑物が関与すると火山泥流と呼び、その場合には必ずしも泥質分が卓越しているとは限らず、土石流に近い状態もある。インドネシアの火山体周辺で頻発することでラハーという用語が同義語として使われることがある。水ではなく気体(空気)と混ざった流れの場合には岩屑なだれという。
地質年代