項目 木曽川泥流堆積物 きそがわでいりゅうたいせきぶつ
関連項目 凡例解説>第四紀堆積層>木曽川流域>木曽川泥流堆積物
地点 各務原市鵜沼西町
見学地点の位置・概要    各務原台地の上を東進してきた国道21号は、鵜沼羽場町付近で南へ迂回するようにしてから比較的急な坂道として低地へ下がっていく。これを迂回せずにそのまま東進する道が旧中山道にあたる市道で、東へ張り出した台地の北縁に沿ってしばらく台地上を進み、緩やかな坂道として低地に向かって下っていき鵜沼宿へと向かう。市道が台地から鵜沼宿へ向かって下りはじめる位置で、鵜沼西町1交差点の100mほど手前の北側に駐車場を兼ねた空き地があり、その奥に木曽川泥流堆積物からなる崖がある。
見学地点の解説    崖を作る木曽川泥流堆積物は、全体に層理面などの堆積構造をともなわない塊状の堅硬な岩石からなり、細礫や粗粒砂からなる硬く締まった基質の中に、1cmほどから30cmほどのさまざまな大きさの礫を多量に含む。礫のほとんどはいろいろな種類の安山岩類の角礫であるが、美濃帯堆積岩類の砂岩やチャートなどの円礫~亜円礫も含まれる。この堆積物は、御嶽火山の山体崩壊物(安山岩類)が当時の木曽川の河床礫(砂岩やチャートなど)を取り込んで流れ下ったもので、八百津町に分布する同堆積物中に含まれていた炭化木片から約5万年前という年代値が得られている。
ジオの視点    木曽川泥流堆積物は新期御嶽火山の後半にあたる摩利支天火山群の活動中に発生した大規模な山体崩壊に由来する堆積物で、最初は岩屑なだれとして御嶽山東麓に広がり、さらに下流へ下りながら泥流となり、それが当時の木曽川に沿って流れ下った。泥流は中津川市坂下の河岸段丘(高部面)の上に載り、美濃加茂市の加茂野台地や各務原市の各務原台地にまで200km以上も流下し、新期御嶽火山の前半にあたる時期に流下して堆積した木曽谷層を覆って、厚さ10~30mで堆積している。
写真 各務原市鵜沼西町に露出する木曽川泥流堆積物
(撮影:小井土由光)
写真 木曽川泥流堆積物の近接写真
(撮影:小井土由光)
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
新期御嶽火山
御嶽火山において古期御嶽火山の活動終了後に約30万年にわたる長い静穏期を経て始まった活動で、現在の御嶽火山の中央部を構成する火山体を形成した。それらは活動の前半に形成された継母岳火山群と後半に形成された摩利支天火山群に分けられ、両者はほぼ連続的に起こったようであるが、噴出物の性質は明瞭に異なる。これらの活動では新期御嶽テフラ層と呼ばれる大量の降下火砕堆積物を噴出しており、有効な指標となる広域テフラとして中部・関東地方に広く火山灰層を飛ばしており、隣接する乗鞍火山がおもに溶岩を流出させていることと対照的な活動をしている。なお、その活動経過については、山麓部での降下火砕堆積物の層序解析などから異なる見解も出されている。
摩利支天火山群
新期御嶽火山の後半に活動した火山群で、前半の継母岳火山群の活動に引き続いて始まり、約10km3の安山岩質の噴出物を噴出して8つの成層火山をほぼ南北に重複するように形成し、現在の御嶽山頂上付近の地形をつくった。それらのうち末期の火山体が火口を明瞭に残している。この時期に発生した大規模な岩屑なだれ-泥流堆積物が木曽川泥流堆積物であり、山体の北東山麓から各務原市付近まで約200kmを流下している。最近の約2~3万年間は静穏期にあたっているが、その中でも何回かの水蒸気爆発を起こしており、1979(昭54)年に突然起こった水蒸気爆発(事項解説『災害』の項目「御嶽火山1979年噴火」を参照)に続いて、2014年9月にも水蒸気爆発を起こした(事項解説『災害』の項目「御嶽火山2014年噴火」を参照)。
岩屑なだれ
水蒸気や空気などの気体と岩塊など固体破片の混合物が大規模に(体積で106m3以上 )高速で(速いもので150m/秒)斜面を流れ下る現象で、火山現象としてもみられるが、地震動で山体が崩壊して起こることもある。火砕流に似た現象であるが、火砕流はマグマ起源の物質を主体とする高温の流れであるのに対して、これは既存の物質からなる低温の流れである。気体が水に代わると泥流あるいは土石流となり、岩屑なだれが途中から河川の水を取り込んで泥流・土石流になることはよくある。
泥流
礫、砂、泥などの砕屑物が水と混ざって流れ下る場合に、泥質分を多く含み、粗粒の礫質分の少ない流れを指す。礫質分が多いと土石流と呼ぶことがあるが、明確な境界があるわけではない。火山砕屑物が関与すると火山泥流と呼び、その場合には必ずしも泥質分が卓越しているとは限らず、土石流に近い状態もある。インドネシアの火山体周辺で頻発することでラハーという用語が同義語として使われることがある。水ではなく気体(空気)と混ざった流れの場合には岩屑なだれという。
木曽谷層
新期御嶽火山の継母岳火山群の活動により発生した岩屑なだれおよび泥流として木曽川沿いに流れ下り、木曽谷を埋積した堆積物である。最大層厚約50mで、おもに粗粒砂層ないし砂礫層からなり、新期御嶽火山の初期に噴出したPm-1あるいはPm-3と呼ばれる軽石を含むことを特徴としている。中津川市坂下の河岸段丘(松源地面)をはじめとして、加茂野台地や各務原台地などで中位段丘堆積層を形成している。
地質年代