項目 春日鉱山跡 かすがこうざんあと
関連項目 事項解説>鉱山跡・資源>非金属資源>春日鉱山
地点 揖斐郡揖斐川町春日川合
見学地点の位置・概要    旧春日村地域を流れ下る粕川に沿って県道32号春日揖斐川線が走っている。その途中の春日川合から800mほど北上した県道脇に錆びた鉄骨のコンベアー跡が見られ、これが春日鉱山の施設の名残りである。鉱山跡へは立入禁止であり、事故防止のためにもいかなるルートからも立ち入ることは避けなければならない。ここから県道沿いに尾根1つ西側(上流側)に回り込むと大きな岩壁があり、ここも鉱山施設があった場所のようである。その少し上流から河床へ下りる坂道がある。河床に転がっている岩石に春日鉱山をもたらしたスカルン鉱床の熱源となる貝月山花崗岩や熱変成を受けた岩石類が見られる。
見学地点の解説    春日鉱山は、美濃帯堆積岩類石灰岩が熱変成作用を受けたことで形成されたスカルン鉱床としてドロマイト(CaMg(CO3)2)や珪灰石(CaSiCO3)をおもに採掘していた。その石灰岩はメランジュ中に含まれた岩体であり、この付近に分布する石灰岩にはドロマイトを多く含むために、スピネル(MgAl204)・透輝石(CaMgSi206)などのMgに富むスカルン鉱物が多く、20種類以上の鉱物が含まれているとされている。鉱山跡付近あるいは粕川河床には石灰岩が熱変成作用を受けた大理石などが多くみられるが、現在ではそれらに大きなスカルン鉱物が含まれている例はほとんど見られない。
ジオの視点    貝月山花崗岩が美濃帯堆積岩類を貫いて周囲の幅2.5~3kmほどの範囲に強い熱変成作用を与えており、その南東側に帯状に分布する石灰岩が交代作用を受けて作られたスカルン鉱床を稼行対象とした鉱山が春日鉱山である。このスカルン鉱床はドロマイトや珪灰石などの非金属資源を生成しているが、同じスカルン鉱床でも神岡鉱山洞戸(ほらど)鉱山のような金属資源を生成することもある。
写真 春日鉱山の施設跡
(撮影:小井土由光)
写真 春日鉱山跡の前の粕川河床で見られる大理石
(撮影:小井土由光)
スカルン鉱床
石灰岩などの炭酸塩岩が花崗岩などの貫入によりもたらされる熱水により交代作用を受けて形成される熱水鉱床の一種で、スウェーデンの鉱山用語に由来している。熱水からもたらされた珪酸(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、鉄(Fe)などの成分と炭酸塩岩が反応して生じたカルシウムまたはマグネシウム質珪酸塩鉱物の集合体をスカルン鉱物といい、単斜輝石、ザクロ石、緑れん石などがある。その際に鉄や銅をはじめ亜鉛や鉛などの有用な金属を含む鉱石鉱物が一緒にもたらされる。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。
メランジュ
もともとは混合を意味するフランス語であり、いろいろな種類の岩石が複雑に混じりあった地質体を指し、プレートの沈み込みにともなう構造運動で変形した岩石類にあてはめて用いることが多い。美濃帯堆積岩類においては、泥岩の基質中に石灰岩・緑色岩・チャート・珪質泥岩・砂岩などからなるさまざまな大きさの礫あるいは岩塊を異地性岩体として数多く含む地質体である。海洋プレート上に載った堆積物が海溝部で付加される過程のほかに、海底地すべりや断層に沿う破断作用などの過程が複合されて形成されると考えられている。
貝月山花崗岩
岐阜・滋賀県境付近にある貝月山(標高1234m)周辺地域に南北約14km、東西約11.5kmの規模で分布し、その東側にも南北約4km、東西約1.5kmの大きさで小岩体が分布し、両者は地下で連続していると考えられている。おもに粗粒塊状で等粒状の花崗岩~花崗閃緑岩からなり、中心部で斑状となる。また、東側の小岩体ではやや細粒となる。周囲に分布する美濃帯堆積岩類を貫き、著しい熱変成作用を与えているが、岩体の北部と東部あるいは東側小岩体において貫入面が緩やかになる傾向を示す。濃飛流紋岩と接していないために関係はわからないが、形成年代値から“先濃飛期”の深成岩体と判断される。
神岡鉱山
鉱山の歴史は古く、採掘は奈良時代に始まる。1874(明7)年に当時の三井組が本格的な開発をはじめ、近代的な手法により大規模な採掘がなされ、約130年間の総採掘量は7,500万トンにも達している。一時は東洋一の鉱山として栄えたが、2001(平13)年6月に鉱石の採掘を中止した。飛騨帯構成岩類の飛騨変成岩類のうち、おもに結晶質石灰岩を火成岩起源の熱水が交代したスカルン鉱床を稼行対象とした鉱山で、栃洞(とちぼら)坑、茂住(もずみ)坑、円山(まるやま)坑などの鉱床がある。亜鉛鉱石の主要鉱物である閃亜鉛鉱に含まれるカドミウムを原因とする公害病「イタイイタイ病」が下流域の富山県神通川流域で大規模に発生したことはよく知られている。また、茂住坑の跡地はスーパーカミオカンデとしてニュートリノ観測装置に利用されている。なお、2007年に日本地質学会により「日本の地質百選」に選定されている。
洞戸鉱山
奥美濃酸性岩類の活動にともなわれる花崗斑岩や石英斑岩の岩脈類が美濃帯堆積岩類を貫き、その中の石灰岩の岩体との交代作用により形成されたスカルン鉱床を稼行対象とした鉱山である。閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などを産出し、これらにともなって透輝石の美晶や水晶の日本式双晶が産出することで知られている。1910(明43)年に採掘が開始され、1920(大9)年に閉山された。柿野鉱山とは尾根を隔てた反対側にあり、鉱床の産状はよく似ている。
地質年代