項目 貝月山花崗岩 かいづきやまかこうがん
関連項目 凡例解説>先濃飛期火成岩類>深成岩類>貝月山花崗岩
地点 揖斐郡揖斐川町春日美束(みつか)
見学地点の位置・概要    県道32号春日揖斐川線沿いの春日鉱山跡付近から北には、かなり広範囲に貝月山花崗岩が分布している。ただし、それらが道路沿いで実際に露出している場所はかなり限られ、露出している場合でもそのほとんどは風化してマサ化したものである。それらのうち、美束寺本の南で県道32号線から国見岳スキー場への近道表示に沿って進むと、粕川にかかる中郷橋の手前(東側)に珍しく堅硬な貝月山花崗岩が道路沿いに露出している。
見学地点の解説    貝月山花崗岩は、岐阜・滋賀県境付近にある貝月山(標高1,234m)周辺地域に南北約14km、東西約11.5kmの規模で分布する巨大な花崗岩体であり、美束周辺ではその南縁部にあたる部分を見ていることになる。等粒状に含まれる比較的粗い5mmほどの石英・長石類と1mm程度の黒雲母とわずかに角閃石が見られる。ほとんどは砂状に風化してマサ化しており、硬くみえるようなところでもハンマーでたたくと鈍い音がして崩れるような状態にある。なお、国見岳スキー場脇の駐車場では、かなり広範囲に砂状に風化した花崗岩が露出しており、含まれる暗色包有物も風化して砂状になっている様子が観察される。
ジオの視点    貝月山花崗岩は周囲に分布する美濃帯堆積岩類を貫き、著しい熱変成作用を与えており、それ以降に形成されたことは間違いないが、地質学的な関係からその形成時期をきちんと決めることはむずかしい。とりわけ、中部地方に分布する火成岩類の活動時期として濃飛流紋岩との関係が指標となるが、それと接していないためにわからない。現時点では、得られている約9,500万~9,900万年前という年代値から先濃飛期火成岩類の深成岩類と考えられているだけである。
写真 春日美束の中郷橋付近に露出する貝月山花崗岩
(撮影:小井土由光)
写真 国見岳スキー場駐車場で見られる風化した貝月山花崗岩(ねじり鎌(27cm)の横に風化した暗色包有物を含む)
(撮影:小井土由光)
マサ化
地下で固結した花崗岩が地表に露出したことで気温の変化により岩石の表面で膨張収縮をわずかながらでも繰り返し、岩石中の鉱物が互いに接している完晶質岩であるために膨張率の違いが鉱物単位で歪みを生じ、ばらばらにされて砂状に破壊されていく現象である。もともとは「真砂土(まさど・まさつち)」という園芸用土壌の用語として使われているが、それをもたらす風化作用に拡大して使われるようになっている。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
熱変成作用
既存の岩石が熱いマグマと接触して岩石組織や組成を変えられてしまう現象で、接触変成作用ともいう。この作用で形成された岩石を熱変成岩あるいは接触変成岩といい、これを「ホルンフェルス」と呼ぶこともある。これはドイツ語で、ホルン=角のように固くなったフェルス=様子を意味しており、もともとは泥岩を源岩とする熱変成岩に用いられた用語であるが、すべての熱変成岩に用いられることが多い。熱をもたらすマグマは接触した岩石に熱を奪われて冷却していくから、熱変成作用は花崗岩体を形成するような大きな容量をもつマグマの周辺で起こりやすい。


地質年代