項目 石灰質角礫岩 せっかいしつかくれきがん
関連項目 事項解説>天然記念物>岩石>笹又の石灰質角礫巨岩
地点 揖斐郡揖斐川町春日笹又 さざれ石公園
見学地点の位置・概要    粕川沿いに走る県道32号春日揖斐川線から春日川合で支流の長谷川沿いに走る県道257号川合垂井線に入り、8kmほど南下するとさざれ石公園の駐車場に着く。そこから200mほど山道を歩くと岐阜県指定の天然記念物「笹又の石灰質角礫巨岩」に至る。なお、さざれ石公園に至るまでの県道257号線沿いで人家の庭先にかなり多くの石灰質角礫岩が並べられているのを見ることができ、それらも参考にするとよい。
見学地点の解説    さざれ石公園周辺は伊吹山(標高1,377m)の東麓にあたり、伊吹山の上半部を占めて分布している美濃帯堆積岩類の石灰岩が崩落して、この付近にはそれらが大小さまざまな角礫となって堆積している。石灰岩礫の表面が雨水等で溶かされ、その石灰分がセメントの役割を果たして角礫を固めて天然のコンクリートとなり、わずかに他の岩石の角礫も含んではいるが、ほとんど石灰岩の角礫だけが集まった角礫岩を作るようになる。これを一般には石灰質角礫岩といい、「さざれ石」という俗称でも呼ばれている。こうした角礫岩がこの付近には大小さまざまな岩塊として分布している。
ジオの視点    “さざれ”とは“小さい”あるいは“細かい”という意味であり、「さざれ石」は小石あるいは細かい礫のことになる。古今和歌集で「さざれ石の巌となりて・・・」と詠われた中味は、「小石が集まって大きな岩塊ができるほど(長い年月)」という意味であり、砂や礫の砕屑物が長時間かけて固まって砂岩や礫岩になるという地質学的な現象を表現していることになり、これを専門用語で続成作用という。
写真 岐阜県指定の天然記念物「笹又の石灰質角礫巨岩」
(撮影:小井土由光)
写真 石灰質角礫岩
(撮影:小井土由光)
笹又の石灰質角礫巨岩
揖斐川町春日の『さざれ石公園』にある、横5.6m、幅2.7m、重さ約50㌧の巨大な岩塊が指定されている。この岩塊は「さざれ石」と呼ばれ、いろいろな大きさの石灰岩の岩屑が集まり、それらが互いに接着剤でくっつけたように固まったことで形成された角礫岩である。この地域は美濃帯堆積岩類を構成する石灰岩からなる伊吹山の東斜面にあたり、この斜面を崩れ落ちてきた石灰岩の岩屑が積み重なり、雨水に溶かされた石灰岩が再び石灰分を沈着させてセメントの役割をしてくっついて、石灰岩の岩屑だけからなる角礫岩が形成された。この地域にはそうした角礫岩がさまざまな大きさで転がっている。
伊吹山
伊吹山系の主峰をなす標高1377mの山(頂上は滋賀県)で、山体の上半部は美濃帯堆積岩類の石灰岩からなり、当時の海山を覆っていたサンゴ礁を形成していた岩石に相当し、古生代ペルム紀のウミユリやフズリナの化石を多量に含んでいる。平らな広い山頂部周辺はカルスト台地となっており、石灰岩地域特有の植物も多く、“イブキ”を冠する種の植物が数多く自生している。山頂近くまで伊吹山ドライブウェーで行けることもあり、高山植物や薬草の観賞、散策、パノラマ眺望などを求めて多くの人が訪れる。また、中京圏や関西圏から近いこともあり、南斜面をほぼ直登する日帰り登山、夜間登山も盛んに行なわれている。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。


地質年代