項目 下呂温泉源泉塔 げろおんせんげんせんとう
関連項目 事項解説>温泉・地下水>飛騨地域>下呂温泉
地点 下呂市湯之島 飛騨川河床
見学地点の位置・概要    下呂温泉の温泉街北部は湯之島地区と呼ばれ、山地が迫った飛騨川沿いの狭い平坦地の中をJR高山線と旧国道41号が並走している。この地区で旧国道からJR高山線を越えて飛騨川河床へ向かう道は一つしかなく、湯之島踏切を渡ってすぐ左折すると、JR高山線の鉄橋の下をくぐり河川敷へ入っていく。その河川敷に石灯籠を模した石塔が見える。
見学地点の解説    河川敷に見られる石塔は4本立っており、これらが下呂温泉湯之島地区の源泉塔である。実際にはお湯は石塔の脇にある鉄板の下から汲み上げられており、これら以外にも源泉井にあたるものは飛騨川河床周辺に集中して分布しており、そこを通る下呂断層に沿って湧出している。各源泉井から汲み上げられたお湯は地下をパイプで河川敷のすぐ脇にある緑色の巨大なタンクへ運ばれ、そこに溜められて集中管理され、各旅館等に配湯されている。同様の施設は飛騨川右岸(西岸)側にもあり、下呂温泉の湯は枯渇を防ぐために全体で集中管理されて運用されている。
ジオの視点    下呂温泉は、江戸時代初期に儒学者林羅山が有馬温泉、草津温泉とともに日本三名泉に数えたことで知られる温泉であるが、その理由は定かでなく、それらに共通する地学的な特徴もあるわけではない。下呂断層や湯ヶ峰断層などの阿寺断層系の断層沿いに形成された破砕帯などから地下へしみ込んだ地下水が、まだ冷えきっていない湯ヶ峰火山のマグマ溜りで温められ、下呂断層の破砕帯に沿って形成された飛騨川の低所に湧き出していると考えられている。
写真 下呂温泉湯之島地区の飛騨川河床にある泉源塔
(撮影:小井土由光)
写真 下呂温泉の泉源と下呂断層の位置
(脇田・小井土(1994)に基づく)
下呂断層
下呂断層は、下呂市と中津川市の境にある舞台峠付近から北西へ向かい、初矢(はちや)峠を経て、飛騨川沿いに下呂温泉街を抜け、下呂市馬瀬(まぜ)惣島方面へと延びる。全長約15kmほどであり、すぐ北西側をほぼ並走している湯ヶ峰断層とともに北西~南東方向に延びる阿寺断層系の北西部にあたる。下呂温泉のおもな泉源の位置は飛騨川に沿って通る下呂断層沿いに分布しており、その断層破砕帯にかかわって湧出している。
湯ヶ峰断層
湯ヶ峰断層は阿寺断層系の1つで、下呂市御厩野(みまやの)付近から乗政三ツ石、湯ヶ峰を経て、下呂温泉の北方へ向かって全長約10kmにわたり延びる。三ツ石は南西へ向って緩く傾いた段丘面の上にあり、その南西部に北西~南東方向に延びる高さ2~3mの直線状の低断層崖が谷の上流側に向いてある。ここで1986(昭61)年にトレンチ調査が行われ、トレンチ面にはその南西側に基盤の濃飛流紋岩が、北東側に上流や断層崖から供給された砂礫層がそれぞれみられ、南西側が明瞭に隆起していた。この調査で、約7,000年前以降に少なくとも4回以上の断層活動があり、最新の活動は約3100年前以降であることがわかった。さらに1990年のトレンチ調査では約1,000年前以降に活動したことが明らかにされ、1583(天正13)年の天正地震により崩壊したとされる大威徳寺(だいいとくじ)が南東へ数km離れた場所にあり、この断層が活動した可能性も考えられる。
湯ヶ峰火山
下呂温泉の東方にある湯ヶ峰(標高1066m)の山頂部を構成する径1kmほどのきわめて小さい火山体であり、流理構造をもつ無斑晶質のデイサイト質溶岩からなリ、溶岩ドームを形成している。そのマグマがまだ冷えきっていないことで、下呂温泉の熱源になっている可能性が高いと考えられている。また、溶岩のうち黒色で緻密なガラス質のものは「下呂石」,灰色や灰褐色のものは「小川石」とそれぞれ呼ばれている。下呂石は刃物のように硬く鋭い割れ口をもつことから、縄文~弥生時代にかなり広範囲に石器の材料として流布した。小川石は板状に割れるために庭石として利用されている。


地質年代