項目 落部川文象斑岩 おちべがわぶんしょうはんがん
関連項目 凡例解説>後濃飛期火成岩類>庄川火山-深成複合岩体>落部川文象斑岩
地点 高山市荘川町赤谷
見学地点の位置・概要    白川村方面へ向かう国道156号が御母衣(みぼろ)湖を最初に渡る橋が岩瀬橋である。その200mほど手前に右方へ入る舗装された林道があり、それを1.2kmほど入った湖岸側の道路脇に落部川文象斑岩が露出している。落部川文象斑岩はこれより奥の御母衣湖周辺に広く分布しており、林道沿いに点々と露出しているが、いずれも風化が進んでおり、比較的新鮮な露出面を見せている場所としてはこの地点が国道から最も近い場所になる。
見学地点の解説    落部川文象斑岩は、新鮮な露出面では淡紅灰色~乳白灰色をなし、風化すると茶褐色になることが多い。かなり細粒の石基部の中に、最大で5mmほど、多くは1~2mmほどの石英と長石類の斑晶が含まれており、長石類は石基部と区別がつきにくい色調を示す。石基部は細かい結晶の集合体のように見えるが、顕微鏡でみると文象構造が明瞭に見られ、その中に小さいながらも斑晶が散りばめられていることで、文象斑岩の名称が付けられた岩石となる。
ジオの視点    落部川文象斑岩は庄川火山-深成複合岩体の花崗岩ユニットを構成する岩体の一つであり、複合岩体の主要部をなすコールドロンの外側にあり、その南側にあたる御母衣湖東岸の落部川流域に広く分布する。文象斑岩あるいは石英斑岩の岩相を示し、濃飛流紋岩のNOHI-3を構成する下呂火山灰流シートや庄川火山-深成複合岩体の大原谷溶結凝灰岩層を貫く。小規模な熱水鉱脈鉱床として金鉱床(六厩鉱山)をともなう。
写真 淡紅灰色~乳白灰色をなす落部川文象斑岩
(撮影:小井土由光)
写真 風化して茶褐色をなす落部川文象斑岩
(撮影:小井土由光)
文象構造
マグマの最終固結期に長石類と石英が同時に晶出することで、長石の結晶中にクサビ形文字状に石英が連晶してできる構造で、花崗岩質岩石に見られる。連晶が顕微鏡スケールで確認できるような場合は微文象構造という。
庄川火山-深成複合岩体
岐阜県北西部の庄川上流域に約40km×25kmの規模で分布する火山岩類と花崗岩類は、濃飛流紋岩および関連する花崗岩類よりも新しい時期に形成されたものであることが明らかにされ、それらを庄川火山-深成複合岩体と命名して濃飛流紋岩と区別して扱うようになった。ただし、まだ全体にわたる詳細な調査・検討がなされていないため、とくに火山岩類についてはおもに分布域の南部において層序区分がなされているだけであり、それ以外の地域では「未区分火山岩類(S0)」としてある。区分された火山岩類は、下位から、六厩川層、大原谷溶結凝灰岩層、シツ谷層、金谷溶結凝灰岩層、なお谷層、宮谷溶結凝灰岩層に分けられており、前三者が「庄川コールドロン」と呼ばれるコールドロンの外側ユニット(コールドロン外ユニット)を、後三者がコールドロンの内側ユニット(コールドロン内ユニット)をそれぞれ構成している。貫入岩類は、花崗岩ユニットとしてコールドロンの内部および縁辺部を貫いており、それらの産状や岩相上の特徴などから、落部川文象斑岩、白川花崗岩類(鳩ヶ谷・平瀬・森茂岩体)、御母衣環状岩脈の3種類に分けられる。
コールドロン
火山活動に関係して形成される凹地をカルデラというが、もともとは地形として認識できる場合に使われる用語であった。そのため、古い時代に形成された火山体で地形上の特徴が削剥されてわからなくなってしまった火山性陥没構造をコールドロンという。最近ではこれらの区別を厳密にしない傾向があり、すべて「カルデラ」と表現されている場合がしばしばみられる。
下呂火山灰流シート
濃飛流紋岩の岩体南縁部を除くほぼ全域にわたり分布し、NOHI-3の主体をなすとともに濃飛流紋岩の中で最大規模の火山灰流シートであり、最大層厚は1,000m以上もある。下部で流紋岩質の、上部で流紋デイサイト質の溶結凝灰岩からなり、岩体北部ではそのさらに上部に流紋岩質の溶結凝灰岩をともなう。これらの岩相間の関係は漸移的であり、場所によっては繰り返して出現することもある。流紋岩質の溶結凝灰岩は、径4~6mmの粗粒の斜長石・石英・カリ長石を多量に含み、苦鉄質鉱物として黒雲母・角閃石・不透明鉱物をを含む。長径数~十数cmの大型の本質岩片を多量に含む。流紋デイサイト質の溶結凝灰岩は、径3~5mmの粗粒の斜長石・石英を多く含み、苦鉄質鉱物として黒雲母・角閃石・輝石・不透明鉱物を比較的多く含む。いずれの溶結凝灰岩も長径10cmを超える大型の本質岩片を多量に含み、その中に径1cmを超える粗粒斜長石斑晶を多量に含むことを特徴とする。上部の流紋岩質溶結凝灰岩は下部のものに比べて本質岩片が径1cmほどと小型になる。
大原谷溶結凝灰岩層
庄川火山-深成複合岩体のコールドロン外ユニットのうち最下部層および下部層をなす。六厩川層は、約30~100mの層厚で、同岩体の南東部にあたる六厩川流域からその北方へかけての地域に分布し、濃飛流紋岩のNOHI-3を構成する下呂火山灰流シートを覆い、凝灰質砂岩・泥岩や細粒ガラス質凝灰岩などからなる連続性の良い砕屑岩層からなる。大原谷溶結凝灰岩層は最大層厚約500mで、六厩川流域からその北方の森茂(もりも)川流域や栗ヶ岳(標高1728m)周辺地域、御母衣(みぼろ)湖周辺地域からその北方の大白川下流域へかけての地域に広く分布し、比較的細粒の斑晶と小型の本質岩片で特徴づけられる流紋岩質の溶結凝灰岩からなり、薄い(20m以内)成層した凝灰岩層をしばしば挟む。非溶結部を介して六厩川層を覆う。
熱水鉱脈鉱床
地殻内に存在する高温水溶液(熱水)から沈殿生成した鉱床で、熱水はおもにマグマ活動に由来しており、既存の岩石と反応することで変質作用を与えたり(熱水変質作用)、岩石を溶解して交代作用を起こしたり、溶解している金属種を沈殿させることで形成される。大きく、スカルン鉱床、鉱脈型鉱床、黒鉱鉱床に分けられる。
六厩鉱山
庄川火山-深成複合岩体を構成する落部川文象斑岩にともなわれる小規模な熱水鉱脈鉱床を稼行対象とした鉱山で、六厩川沿いおよび支谷沿いにいくつかの坑口があった。金山としてはおもに江戸時代初期に稼行し、中期以降は休止していたようである。現在も旧坑口付近の谷沿いで砂金として採取できる。
地質年代