項目 丹生川火砕流堆積物 にゅうかわかさいりゅうたいせきぶつ
関連項目 凡例解説>第四紀火山>槍-穂高火山>丹生川火砕流堆積物
地点 高山市久々野町大西
見学地点の位置・概要    国道361号(美女街道)は、大西山地を抜けて南側の大西地区で大きく左カーブを描いて県道87号久々野朝日線と合流する。そのカーブの途中で右折して反対方向へ戻るように道があり、それをたどると小さな沢にぶつかる。その沢に沿って300mほど北上するとイノシシ対策用の金網の扉があり(自由に開閉できるが、必ず閉めておくこと)、扉から左手の大西林道を200mほど進むと右手に丹生川火砕流堆積物が露出している。
見学地点の解説    ここに露出している岩石は灰色をなし、2mmほどの斜長石・石英と0.5mmほどの小さい柱状の輝石類(おもに紫蘇輝石)がかなり明確に区別でき、それらの量が多いことを特徴とするデイサイト質の火砕流堆積物からなる。岩石を割ると1cmほどの淡黄色をした軽石片が含まれており、あまり堅硬な印象がなく、溶結凝灰岩にしばしば見られる柱状節理にあたるものが見られないことから、基底部に近い非溶結部に相当している可能性がある。この付近では美濃帯堆積岩類を覆い、見座礫層久々野凝灰角礫岩層に覆われる。なお、この地域ではこの堆積物を観察できる場所はかなり限られており、火砕流堆積物としてのおもな特徴が観察できるような適切な場所は見つかっていない。
ジオの視点    丹生川火砕流堆積物は、高原川流域から高山市の市街地周辺、御嶽山北西方へかけての広範囲に分布し、分布面積は500km2以上、噴出量は約100km3と推定されており、最大層厚は200m以上である。飛騨山脈地域の急激な隆起により削剥が進んでしまった槍-穂高火山から噴出し、そのコールドロンを埋めている穂高安山岩類と同一のものがその外へ溢流した大規模な火砕流堆積物に相当する。大西山地(位山分水嶺)よりも南側に分布していることは、この堆積物の形成後に山地の上昇隆起が始まったことを意味する。
写真 大西林道沿いに露出している丹生川火砕流堆積物
(撮影:小井土由光)
写真 丹生川火砕流堆積物の破断面の近接写真
(撮影:小井土由光)
溶結凝灰岩
火砕流によりもたらされた堆積物が溶結作用を受けると、その程度により強溶結、弱溶結、非溶結凝灰岩となり、一般には強溶結凝灰岩をさしていう。おもに火山灰が集まって形成された岩石ではあるが、強く圧密化した岩石となり、きわめて堅硬な岩石となる。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
見座礫層
高山市朝日町万石(まんごく)付近から現飛騨川の北側に沿って高山市久々野(くぐの)町山梨を経て無数河(むすご)付近までほぼ連続して分布する。分布は宮峠断層よりも南側に限られ、位山分水嶺形成後に南流を始めた飛騨川の河川堆積物であるが、その流路は現在よりも北側の位置を流れていた。層厚約40mのよく円磨された大~巨礫からなり、ほとんど濃飛流紋岩や安山岩類の風化の進んだ軟らかい礫からなり、礫径は下流へ向かって小さくなる。
槍-穂高火山
槍-穂高連峰に分布する穂高安山岩類が、高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物の給源にあるコールドロンを埋積した堆積物であり、さらにその西側に分布する滝谷花崗閃緑岩に貫かれ、これらが第四紀前期の火山-深成複合岩体を形成していることで命名された火山である。この火山の活動では、巨大な噴煙にともなわれる降下火砕堆積物は形成されなかったようであるが、丹生川火砕流堆積物の流出に際して上空に噴き上げられた火山灰が「穂高-Kd39」と呼ばれる広域テフラとして房総半島地域にまで飛んでいる。
コールドロン
火山活動に関係して形成される凹地をカルデラというが、もともとは地形として認識できる場合に使われる用語であった。そのため、古い時代に形成された火山体で地形上の特徴が削剥されてわからなくなってしまった火山性陥没構造をコールドロンという。最近ではこれらの区別を厳密にしない傾向があり、すべて「カルデラ」と表現されている場合がしばしばみられる。
穂高安山岩類
槍-穂高連峰の山稜部を構成し、おもにデイサイト質の溶結凝灰岩からなり、流紋岩質火砕岩、安山岩質溶岩、砕屑岩類をともない、それらに閃緑斑岩や文象斑岩の岩脈・岩床が貫入している。これらは「穂高コールドロン」と呼ばれる南北約19km、東西約6kmの細長いコールドロンを最大層厚3,300m以上で埋積しており、槍-穂高火山の一員として、いわゆる“カルデラ埋積火山岩類”に相当し、そこから溢流したいわゆる“アウトフロー火砕流堆積物”が高山市地域に広く分布する丹生川火砕流堆積物である。
久々野凝灰角礫岩層
すぐ下位にある見座礫層とほぼ同じ分布域を示し、位山分水嶺形成後に現在よりも北側の位置を流れて南流した飛騨川に沿って堆積したもので、約10mの層厚で上流へ向かって標高が高くなる平坦な地形面を形成している。安山岩質の凝灰角礫岩からなり、丹生川火砕流堆積物、美濃帯堆積岩類、濃飛流紋岩などの亜角礫~円礫を含む。安山岩礫の起源や運搬過程についてはわかっていない。
地質年代