項目 焼岳火山 やけだけかざん
関連項目 凡例解説>第四紀火山>焼岳火山群>焼岳火山・中尾火砕流堆積物
地点 高山市奥飛騨温泉郷中尾
見学地点の位置・概要    焼岳火山は、奥飛騨温泉郷地域のいくつかの場所から眺めることができるが、ここでは山体に比較的近い中尾温泉から頂上付近を眺望することで、活火山としての焼岳火山を遠望することにする。
見学地点の解説    山頂部付近に見える峰のうち最も左側に見える丸みのあるドーム状の峰が約2,300年前に形成された溶岩ドームである。それにともなって北側山麓の足洗谷に沿って流下した中尾火砕流堆積物が中尾温泉のある平坦地を作っており、その上に立って頂上付近を眺めていることになる。現在も活動している焼岳火山であるが、有史以来の活動は水蒸気爆発やそれにともなう泥流・土石流の発生だけであり、溶岩や火砕流などの流出はない。山頂北側の中尾峠付近で現在みられる噴気や硫気活動は、1962~63(昭37-38)年の噴火活動から続いているものであり、その際には泥流が長野県側に流出している。
ジオの視点    焼岳火山は焼岳火山群の中で最も新しく、現在も活動中の火山である。焼岳(標高2455m)を中心として、いくつかの溶岩・溶岩ドームとそれらにともなわれる火砕岩類からなる。山頂部付近の溶岩ドームの形成にともなって流出した中尾火砕流堆積物は発泡の悪い安山岩~デイサイト質の角~亜角礫と同質の基質からなるblock and ash flow堆積物からなる。歴史時代に入ってからは、1907(明40)年から1939(昭14)年まで水蒸気爆発が活発に繰り返され、特に1915(大4)年に水蒸気爆発にともない発生した泥流が長野県側で大正池を作ったことは有名である。
写真 中尾温泉から望む焼岳
(撮影:小井土由光)
写真 奥飛騨温泉郷田頃家(たごろけ)から望む焼岳
(撮影:小井土由光)
中尾温泉
中尾温泉は、同じ奥飛騨温泉郷地域にある福地温泉や平湯温泉などとかなり異なり、温泉水が自然湧出したり、それをくみ上げているわけではなく、高温の水蒸気が湧出していることを特徴とし、それを利用して地表水を温めて温泉水として利用している。道路沿いに湯気が立ちのぼるタンク・水槽がいくつか見られるが、いずれもそこに高温の水蒸気の井戸があり、それを利用して温泉水を作りだしている場所である。比較的上流にあたる標高1,150m付近に京都大学防災研究所穂高砂防観測所があり、そのさらに200mほど奥では地熱開発用の大きな掘削井のやぐらが見られる。また、古くからある温泉宿にあたる施設あるいは温泉街が見られないことも福地温泉や平湯温泉と異なる特徴といえる。
泥流
礫、砂、泥などの砕屑物が水と混ざって流れ下る場合に、泥質分を多く含み、粗粒の礫質分の少ない流れを指す。礫質分が多いと土石流と呼ぶことがあるが、明確な境界があるわけではない。火山砕屑物が関与すると火山泥流と呼び、その場合には必ずしも泥質分が卓越しているとは限らず、土石流に近い状態もある。インドネシアの火山体周辺で頻発することでラハーという用語が同義語として使われることがある。水ではなく気体(空気)と混ざった流れの場合には岩屑なだれという。
焼岳火山群
飛騨山脈の南部にあって、焼岳火山を主峰とする複数の火山体の集まりであり、乗鞍火山帯の中で最近1万年間では最も活発な活動を続けている。形成時期により約12万~7万年前の旧期焼岳火山群と約3万年前以降の新期焼岳火山群に大別され、前者には岩坪山・大棚火山、割谷山火山が、後者には白谷山火山、アカンダナ火山、焼岳火山がそれぞれ該当する。全体に斜長石と角閃石の斑晶が目立つ安山岩質~デイサイト質の溶岩ドーム、厚い溶岩流、泥流堆積物、火砕流堆積物からなり、火砕流堆積物はすべて溶岩ドームの破壊によってできたblock and ash flow堆積物であり、激しい爆発的な噴火活動をほとんど行なっていない。
block and ash flow堆積物
高温の溶岩ドームや溶岩流の一部が崩落することで起こる小型の火砕流により形成される堆積物で、いろいろな大きさの溶岩の岩塊、角礫、岩片などからなる。火山体の斜面上にあって、溶岩自体の爆発や重力などにより崩落を起こすことで発生する。1991(平3)年に雲仙普賢岳で発生した火砕流はこのタイプであり、火砕流の噴火タイプとしてはメラピ型火砕流と呼ばれることもある。

地質年代