項目 チャート層 ちゃーとそう
関連項目 凡例解説>美濃帯堆積岩類>チャート
地点 美濃市保木脇(ほきわき)横持(よこもち)
見学地点の位置・概要    チャート石灰岩互層をともなうチャート層が分布する長良川と杏谷(あんずだに)との合流点付近からそのまま連続して400mほど上流にかけて、河床にチャート層がチャート石灰岩互層をともなって広く分布している。ここでは美濃帯堆積岩類を代表する岩石の一つであるチャート層がいろいろな色調を示して観察しやすい状態で露出している。
見学地点の解説    チャート層は3~5cmほどの厚さで積み重なっており、みごとに褶曲して分布している。硬いチャート層の間には幅5mm以下の薄い泥岩層が挟まれており、それらは軟らかいために削られやすく、凹みあるいは隙間を作っており、それがチャート層の褶曲構造を際立たせている。チャート層は黒色、暗灰色、赤褐色などさまざまな色を示しており、風化すると淡緑灰色をなして脆くなっている場合もある。いずれも非常に小さな(0.1mm程度あるいはそれ以下)放散虫化石などが深海底に堆積してできた岩石であるが、一般にはそれらを肉眼で確認することはかなりむずかしい。
ジオの視点    チャートは基本的にはSiO2成分からなる放散虫化石などの集合体であり、成分としては石英(または水晶)とまったく同じであり、きわめて硬く、風化に対しても強い岩石となる。ただし、すべてのチャートが純粋にSiO2成分だけで構成されているわけではなく、不純物を含むものもあり、それらが風化して本来の堅硬さがなくなってしまう場合もあり得る。また、幅数cmの“板”が強く褶曲して多くの割れ目が入ることで破片化しやすくなり、岩石としては堅くても岩体としては脆いことも注意しておく必要がある。
写真 美濃市保木脇横持の長良川河床に露出するチャート層の褶曲
(撮影:小井土由光)
写真 美濃市保木脇横持の長良川河床において間隙を作って重なるチャート層
(撮影:小井土由光)
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
放散虫
海生の動物プランクトンとして先カンブリア時代から現在に至るまで生息している単細胞生物で、珪酸成分からなる0.1~0.2mmほどの大きさの骨格を持ち、そのため微化石として残されていることが多い。生息した時代により骨格の形態が異なり、その変化が速いために重要な示準化石となる。多くのチャートは放散虫骨格の堆積によって形成されており、それをフッ酸(HF)で腐蝕させた不溶残渣から実体顕微鏡下で放散虫を取り出し、走査型電子顕微鏡を用いて骨格の形態や微細な構造を観察する技術が1980年代になってから確立し、それにより美濃帯堆積岩類では薄いチャート層の単位で形成時代がなされ、それまでおもにフズリナ化石などで決められていた時代とは比べものにならない精度で時代決定がなされるようになった。こうした状況を「放散虫革命」という。



地質年代