項目 緑色岩(枕状溶岩) りょくしょくがん
関連項目 凡例解説>美濃帯堆積岩類>緑色岩(玄武岩質火山岩類)
地点 郡上市八幡町浅柄
見学地点の位置・概要    郡上市美並町の新吉田橋以北の長良川中流域においては、長良川左岸(東岸)に国道156号が、右岸(西岸)に県道61号大和美並線がそれぞれ通っている。そのうちの後者において、郡上八幡までの間のおおよそ中間点にあたる位置に浅柄地区がある。ここは長良川中流域において唯一といってもよいほどのV字谷を形成している場所であり、左岸側は国道156号と長良川鉄道だけが通る絶壁であり、右岸側だけにわずかに開けた斜面をもち、そこに数戸の人家が並んでいる。その谷底にあたる長良川河床に美濃帯堆積岩類の緑色岩が露出している。
見学地点の解説    川底には流れと同方向に層状をなしてチャート層が分布しており、その岸側にそれとはまったく異なる丸い輪郭をもった岩塊が積み重なったように分布している。これが緑色岩である。緑色岩は珪酸(SiO2)成分の少ない流れやすい玄武岩質の溶岩で、それが海水に触れることで枕状溶岩となり、丸い輪郭をなす岩塊の集合体としてしばしば産する。ただし、ここでは丸い輪郭は見えているが、後からの変形作用でかなり扁平化しており、“枕”の外縁に沿ってしばしば見られる急冷細粒部がほとんど確認できない。また、“枕”の間を石灰岩が流れるように充填しており、石灰分が海水との反応で二次的に生じたものと思われる。
ジオの視点    緑色岩は、美濃帯堆積岩類においてペルム紀に海底に噴出して形成された火山島を作った岩石であり、海水との反応で変質作用が促進されて緑色を帯びることが多いためこの名があり、かつては“輝緑凝灰岩”と呼ばれていたこともある。また、海水に急冷されることで枕状溶岩として産することもしばしばある。それらが海山を構成し、その上に形成されたサンゴ礁が石灰岩となって密接にともなわれて産することが多い。ともに美濃帯堆積岩類において最も古い時期に形成された岩石である。
写真 郡上市八幡町浅柄の長良川河床に露出する枕状溶岩
(撮影:小井土由光)
写真 枕状溶岩のすき間を流れるように充填した石灰岩の岩塊
(撮影:小井土由光)
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
枕状溶岩
粘性の低い玄武岩質溶岩が水中を流れる際に、楕円体に近い形状をした“枕”あるいは“米俵”のように見える岩塊を積み上げたような産状を示すもので、個々の岩塊はガラス質の皮殻をもち、中心部に放射状の割れ目をともない、熱い溶岩が水に触れて急冷されたことでできる構造をもつ。
石灰岩
美濃帯堆積岩類の中には、金生山の赤坂石灰岩、舟伏山地域の舟伏山石灰岩、石山地域の石山石灰岩などと呼ばれる比較的大きな石灰岩の岩体が分布しており、石灰石資源として採掘されていたり、場所によっては鍾乳洞地帯を形成している。古生代のペルム紀に形成された緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海山を覆うサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、一般に緑色岩と密接にともなって美濃帯堆積岩類の中では最も古い時期に形成された岩石である。


地質年代