項目 石灰岩 せっかいがん
関連項目 凡例解説>美濃帯堆積岩類>石灰岩
地点 郡上市八幡町安久田(あくた)
見学地点の位置・概要    国道256号の堀越峠付近から八幡町安久田へ向かう県道328号線沿いの地域には美濃帯堆積岩類の石灰岩が広く分布しており、とりわけ「公団幹線林道(旧名)八幡-下呂線」との三叉路付近から東安久田へ至る県道沿いには石灰岩が比較的多く露出している。また、西安久田の集落北側斜面には岩柱状に突出した「ピナクル(石灰岩柱)」と呼ばれる石灰岩地帯特有の景観が見られる。
見学地点の解説    石灰岩は一般に白色をなしているが、淡灰色、暗灰色、場合によっては黒色などいろいろな色調を示す。また、結晶化(大理石化)している部分もみられる。いずれの場合にも、比較的軟らかいためにクギのような金属で容易に傷がつくことで判別できる。この付近の石灰岩には古生代ペルム紀を示すフズリナ(紡錘虫)や腕足類などの化石を含むことが多い。フズリナ(紡錘虫)はその名の通り紡錘形をした5mm~1cmほどの大きさであり、ほとんどの場合に密集して含まれている。ただし、それらが石灰岩のどこでも含まれているわけではなく、含まれている場合でも露出面の条件が良くないとうまく確認できない。なお、フズリナ(紡錘虫)が密集して入った石灰岩の標本は大滝鍾乳洞のケーブルカー乗場に展示されている。
ジオの視点    ほとんどの石灰岩は、緑色岩(玄武岩質火山岩類)からなる海底火山の上に成長したサンゴ礁を構成していた石灰質生物の遺骸が集積して形成されたものであり、緑色岩を近傍にともなって分布することが多い。炭酸カルシウム(CaCO3)からなる石灰岩は、地表でも地下でも二酸化炭素(CO2)を溶かし込んで弱酸性となった雨水あるいは地下水によりいずれも比較的容易に溶かされていく。地下で大規模に溶かされれば鍾乳洞を作り、地表では「カッレンフェルト(溶食水溝)」と呼ばれる岩石表面に縦方向に伸びる溝状の溶食の跡をしばしば形成する。
写真 郡上市八幡町西安久田におけるピナクル(石灰岩柱)
(撮影:小井土由光)
写真 ピナクル(石灰岩柱)の表面にみられるカッレンフェルト(溶食水溝)
(撮影:木澤慶和)
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
大滝鍾乳洞
郡上市八幡町から和良(わら)町にかけての地域には美濃帯堆積岩類の石灰岩が帯状に分布しており、地下には大小あわせて35洞にもなるとされる鍾乳洞が形成されている。大滝鍾乳洞はそれらの中の一つとして1969(昭44)年に発見され、東西方向に約270m,南北方向に約40m、高低差約100mの範囲に大きく4段にわたり広がっている鍾乳洞である。この鍾乳洞は断層に沿って水が集中して流れて大きな滝を地下に形成していることを特徴としており、なかでも最奥部の地下60mの位置にある“大滝”は約30mの落差をもち、豊富な水量を誇っており、観光洞としてのこの鍾乳洞のシンボルとなっている。全体に洞内を流れる水量が多く、泥が洗い流されて白色の透明度の高い鍾乳石類が多くみられる。
緑色岩(玄武岩質火山岩類)
美濃帯堆積岩類において、ペルム紀に海底に噴出して形成された火山島を作った岩石であり、枕状溶岩として産することもある。変質して緑色を帯びることが多いためこの名があり、かつては“輝緑凝灰岩”と呼ばれていたこともある。それらが海山を構成し、その上に形成されたサンゴ礁が石灰岩にあたることで、それらと密接にともなって産することが多い。ともに美濃帯堆積岩類において最も古い時期の岩石である。


地質年代