項目 断層鞍部 だんそうあんぶ
関連項目 事項解説>活断層>東濃地域>阿寺断層(加子母の谷)
地点 中津川市加子母 道の駅「加子母」
見学地点の位置・概要    加子母川に沿って走る国道257号にある道の駅「加子母」から国道の反対側を望むと、そこに迫ってくる急崖が阿寺断層の断層崖である。とりわけやや南東方の郵便局越しに見える急崖には、比較的明瞭な断層鞍部の連なりが見られる。
見学地点の解説    加子母川に沿って北西~南東方向に8kmほどにわたり延びる谷は阿寺断層を構成する複数の断層とそれらの破砕帯に沿って形成されている。断層は谷底から北東側の山腹にかけての幅数kmにわたる断層帯を形成し、そこに断層鞍部がいくつもみられ、それらが北西~南東方向に一直線につながるように分布している。断層鞍部は断層運動で破砕された岩盤が脆くなって削られやすくなったことで凹地を形成したもので、断層に沿って形成されたそれをつなげてみると直線状に並び、そうした特徴から逆に断層の存在を推定する場合もある。また、日本のように降雨の多い地域では、浸食量が大きいために地形として残されにくくなるが、断層鞍部が直線状に連なっていることは、そこを通る断層が何回も動いたことを意味しており、それだけ活動的な断層を想定する材料となる。
ジオの視点    阿寺断層系のうち、加子母川の谷付近から中津川市馬籠(まごめ)付近までを阿寺断層といい、下呂市との境にある舞台峠周辺から北へは、小和知(おわち)断層湯ヶ峰断層下呂断層萩原断層などに枝分れしていく。その兆候は加子母下桑原付近からみられ、加子母川沿いの谷底低地、そこから百数十m程度の高さ、山地の中腹に並んだ断層鞍部のおおむね3列にわたり延びる。加子母の谷から見上げる阿寺山地は、阿寺断層が作り出した比高800mにもなる壮大な断層崖に相当する。断層崖は縦ずれ変位を示す地形であるのに対して、加子母川の約8kmという長さは横ずれ変位を示す地形であり、阿寺断層では圧倒的に後者が卓越していることになる。
写真 道の駅「加子母」北東側の急崖にみられる断層鞍部の連なり
(撮影:小井土由光)
小和知断層
中津川市加子母と下呂市との境にある舞台峠は、阿寺断層系の下呂断層と小和知断層の間にはさまれるように位置する。下呂断層はこの付近が南東端であり、小和知断層は逆に南東の加子母方面に延びる。舞台峠の東側に広がる小郷の平坦地にある水無神社付近では、1586(天正13)年の天正地震の際に小和知断層のすぐ南側に長さ200m程度の副断層ができ、その間が相対的に陥没したことで池が生じたとされており、低断層崖や陥没地が現在も残されている。この陥没地付近での断層露出面やトレンチ調査によれば、1800年前以降に断層活動の証拠があり、それには天正地震時のものも該当する可能性がある。とりわけ、天正地震の時には舞台峠近くにあった大威徳寺(だいいとくじ)が崩壊したとの記録もあり、小和知断層と並走する湯ヶ峰断層におけるトレンチ調査からもその可能性が指摘されていることから、阿寺断層系の活断層が密集するこの地帯における断層活動による天正地震の発生の可能性が示唆されている。
湯ヶ峰断層
湯ヶ峰断層は阿寺断層系の1つで、下呂市御厩野(みまやの)付近から乗政三ツ石、湯ヶ峰を経て、下呂温泉の北方へ向かって全長約10kmにわたり延びる。三ツ石は南西へ向って緩く傾いた段丘面の上にあり、その南西部に北西~南東方向に延びる高さ2~3mの直線状の低断層崖が谷の上流側に向いてある。ここで1986(昭61)年にトレンチ調査が行われ、トレンチ面にはその南西側に基盤の濃飛流紋岩が、北東側に上流や断層崖から供給された砂礫層がそれぞれみられ、南西側が明瞭に隆起していた。この調査で、約7,000年前以降に少なくとも4回以上の断層活動があり、最新の活動は約3100年前以降であることがわかった。さらに1990年のトレンチ調査では約1,000年前以降に活動したことが明らかにされ、1583(天正13)年の天正地震により崩壊したとされる大威徳寺(だいいとくじ)が南東へ数km離れた場所にあり、この断層が活動した可能性も考えられる。
下呂断層
下呂断層は、下呂市と中津川市の境にある舞台峠付近から北西へ向かい、初矢(はちや)峠を経て、飛騨川沿いに下呂温泉街を抜け、下呂市馬瀬(まぜ)惣島方面へと延びる。全長約15kmほどであり、すぐ北西側をほぼ並走している湯ヶ峰断層とともに北西~南東方向に延びる阿寺断層系の北西部にあたる。下呂温泉のおもな泉源の位置は飛騨川に沿って通る下呂断層沿いに分布しており、その断層破砕帯にかかわって湧出している。
萩原断層
萩原断層は、全長70kmにも及ぶ阿寺断層系の北端にあたり、萩原町周辺で南北方向に延びる幅広い直線的な飛騨川の谷からそのまま北へ向かって山之口川に沿って延び、やがて位山(くらいやま)(標高1529m)付近で消滅する。それより北へいくと、直交する方向の宮川断層(大原(おっぱら)断層)、源氏岳断層、ヌクイ谷断層などが現れるようになる。飛騨川の流路は萩原町四美(しみ)付近でほぼ直角に左へ曲げられ、萩原断層に沿って下呂温泉方面へ流れていくことで、左横ずれ運動を繰り返し起こしていることを示しているが、全体として北西~南東方向に延びる阿寺断層系からみると、延びの方向が異なり、やや傾向の異なる断層である可能性もある。1994(平6)年に萩原町四美辻(しみつじ)において行なわれたトレンチ調査では、萩原断層は約9,000年前以降4回にわたり活動していることが明らかにされ、単純平均で約2,000年に1回の活動になる。

地質年代