対象物 飛水峡の甌穴群 ひすいきょうのおうけつぐん
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場所 七宗町上麻生(かみあそう)
指定者
指定年月日 1961(昭36)年7月6日
概要    白川町白川口から七宗町上麻生までの約12kmにわたる飛騨川は飛水峡と呼ばれ、飛騨川が美濃帯堆積岩類チャート層と砂岩層を深く削り込んでいる。その下流部約2kmの間は「ロックガーデン」と呼ばれ、チャート層が段丘状に広がる特異な景観を作り、そこに大小さまざまな甌穴(ポットホール)群が形成されている。その数は直径1m以上のものだけでも500個を越え、全体で1000個に及ぶとされ、その数や大きさにおいて日本を代表する地域となっている。
文献
  • 写真 飛水峡の甌穴
    (撮影:鹿野勘次)
    写真 飛水峡の甌穴
    (撮影:小井土由光)
    飛水峡
    白川町白川口付近から七宗町上麻生に至る飛騨川沿いに約12kmにわたり続く断崖の渓谷で、美濃帯堆積岩類のおもにチャートと砂岩からなる岩盤の中を飛騨川が深く下刻して流れている。そのうち下流部の2kmほどの区間は「ロックガーデン」と呼ばれ、流路の両側にチャートの岩盤が段丘状に広がり、そこに1000個近くあるといわれる甌穴群が形成されており、『飛水峡の甌穴群』として国の天然記念物に指定さている。なお、飛水峡の上流部にあたる上麻生ダム付近で1968(昭43)年に飛騨川バス転落事故が起きている。
    美濃帯堆積岩類
    美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
    チャート
    一般には硬く緻密な微粒珪質堆積岩の総称であり、美濃帯堆積岩類を構成する主要な岩石の一つとして特徴的に産する。厚く層状に分布することが多く、これを層状チャートと呼ぶ。一部に古生代ペルム紀のものも含まれるが、ほとんどは中生代三畳紀~ジュラ紀前期に海底に堆積した放散虫などのプランクトンからなる遠洋性の堆積物で、陸源砕屑物をまったく含まない。
    砂岩
    美濃帯堆積岩類において、海洋プレートが大陸縁辺に近づき、海溝で沈み込んでいく際に陸域から供給される砕屑物である。それぞれが単独の地質体を作る場合もあれば、互層をなす場合もあり、前者においては厚い砂岩層としてしばしば産する。これらの多くは海底地すべりにより混濁流としてもたらされたタービダイトを形成している。
    甌穴
    河床や河岸の表面が堅硬な岩石でできている場合に、そこに割れ目などの弱い部分があると浸食されて凹みを作り、その中に礫が入ると渦流によって礫が回転して円形の穴に拡大していくことで形成される。堅硬な岩石であればその種類は問わず形成され、国指定の天然記念物「飛水峡の甌穴群」は美濃帯堆積岩類のチャートがえぐられている。
    地質年代