項目 巌立 がんたて
関連項目 事項解説>天然記念物>景観>巌立
地点 下呂市小坂町 巌立公園
見学地点の位置・概要    下島温泉「ひめしゃがの湯」から濁河川(にごりごがわ)沿いに案内指示にしたがってさらに奥へ1kmほど進むと巌立公園駐車場に着く。
見学地点の解説    駐車場の対岸に見えている大岩壁が巌立であり、高さ約72m、幅約120mある。御嶽火山噴出物のうち新期御嶽火山を構成する摩利支天火山群に属する噴出物で、約54,000年前に約17km流れ下った安山岩質溶岩流のほぼ到達末端近くにおける断面が見えている。縦方向に見える筋は冷却の過程で形成された柱状節理であり、冷却速度の違いによってその幅が上部で細く、下部で太くなっている。この溶岩の下位にある礫層は河川堆積物で、摩利支天火山群が活動する前(約8万年前)に形成された滝越層と呼ばれる湖成層に相当する。付近一帯は巌立峡と呼ばれ、三ツ滝など数多くの滝をもつ峡谷として知られ、駐車場から気楽に散策できる距離にある。
ジオの視点    巌立を構成している溶岩流は安山岩質であり、鈴蘭高原玄武岩のようにきわめて流動性に富む玄武岩質溶岩とは異なり、珪酸分が多いことからそれほど流動性に富むわけではない。一般には流動距離が短いはずの溶岩流であるにもかかわらず、かなり長い距離を流れ下っていることには、噴出量、溶岩の温度などさまざまな要因を考えなければならないが、流下した谷がきわめて狭く、そこを一気に流れたことが影響していそうである。しかし、きちんと調べてみないとその真相は分からない。
写真 巌立の大岩壁
(撮影:小井土由光)
写真 巌立の溶岩層の下位にみられる礫層
(撮影:小井土由光)
新期御嶽火山
御嶽火山において古期御嶽火山の活動終了後に約30万年にわたる長い静穏期を経て始まった活動で、現在の御嶽火山の中央部を構成する火山体を形成した。それらは活動の前半に形成された継母岳火山群と後半に形成された摩利支天火山群に分けられ、両者はほぼ連続的に起こったようであるが、噴出物の性質は明瞭に異なる。これらの活動では新期御嶽テフラ層と呼ばれる大量の降下火砕堆積物を噴出しており、有効な指標となる広域テフラとして中部・関東地方に広く火山灰層を飛ばしており、隣接する乗鞍火山がおもに溶岩を流出させていることと対照的な活動をしている。なお、その活動経過については、山麓部での降下火砕堆積物の層序解析などから異なる見解も出されている。
摩利支天火山群
新期御嶽火山の後半に活動した火山群で、前半の継母岳火山群の活動に引き続いて始まり、約10km3の安山岩質の噴出物を噴出して8つの成層火山をほぼ南北に重複するように形成し、現在の御嶽山頂上付近の地形をつくった。それらのうち末期の火山体が火口を明瞭に残している。この時期に発生した大規模な岩屑なだれ-泥流堆積物が木曽川泥流堆積物であり、山体の北東山麓から各務原市付近まで約200kmを流下している。最近の約2~3万年間は静穏期にあたっているが、その中でも何回かの水蒸気爆発を起こしており、1979(昭54)年に突然起こった水蒸気爆発(事項解説『災害』の項目「御嶽火山1979年噴火」を参照)に続いて、2014年9月にも水蒸気爆発を起こした(事項解説『災害』の項目「御嶽火山2014年噴火」を参照)。
巌立峡
岐阜県指定の天然記念物「巌立」を中心に、その付近一帯の濁河(にごりご)川あるいは椹(さわら)谷に沿う峡谷である。滝めぐりが楽しめ、そのための遊歩道が整備されており、秋には紅葉の名所としても知られる。巌立も含めて、その景観の主人公となる滝は、新期御嶽火山を構成する摩利支天火山群(約6万~2万年前)に属する溶岩流あるいはその基盤をなす濃飛流紋岩の溶結凝灰岩にかかるものである。
鈴蘭高原玄武岩
高山盆地の南部から中津川市坂下付近の上野火山までのかなり広範囲に散在して分布する玄武岩類からなる単成火山のうち、きわめて平坦な地形をなす鈴蘭高原にまとまって分布するもので、カンラン石の斑晶が多く、斜長石の斑晶が少ないきわめて流動性に富む玄武岩質溶岩を主体とし、わずかに火砕岩をともなう。

地質年代