項目 飛水峡の甌穴群 ひすいきょうのおうけつぐん
関連項目 事項解説>天然記念物>景観>飛水峡の甌穴群
地点 加茂郡七宗町上麻生
見学地点の位置・概要    美濃加茂から白川町へ向かう国道41号が飛水峡に入って最初に通るトンネルが七宗第一トンネルである。その西側入口付近から徒歩で旧道へ入ると、「甌穴群散策路」の看板があり、その脇にある階段を飛騨川河床へ下りると段丘状に美濃帯堆積岩類のチャート層の岩盤が広がり、その上に甌穴群が見られる。
見学地点の解説    岩盤上に広がる数多くの“穴”が甌穴であり、その数は1000を超えると言われ、国の天然記念物に指定されている。甌穴の中には丸い礫が入っているものもあり、それが“穴”の中で激流により回転させられることで“穴”を大きくして甌穴を作り出した。礫が流し出されてしまうと甌穴が大きくなる機会を失うが、礫が入ったまま削り続けられると徐々に大きくなり、互いにつながると巨大化していく。それらがこの岩盤上の甌穴群で見られる。なお、階段を下りずに旧道沿いに少し上流へ歩くと、眼下に広く露出した岩盤の上に大小の甌穴が見られる。
ジオの視点    甌穴は、堅硬な岩石において弱い箇所にできた穴に礫が入り、それが激流で回転して研磨役となって形成される。条件が整えば比較的容易に形成されるが、常に激流にさらされているような場所では削られる機会が多く、甌穴として残りにくい。飛水峡では、狭い峡谷で激流を生みやすい場所でありながら、堅いチャート層が通常の流路より高い位置に段丘状に広がっていることで、かなり水位が上がった際に形成された甌穴が削られることなくそのまま残されていることになる。
写真 飛水峡における甌穴群
(撮影:小井土由光)
写真 チャート層に形成された巨大な甌穴
(撮影:鹿野勘次)
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。




地質年代