項目 釜ヶ渕 かまがふち
関連項目 事項解説>景勝地・景観>渓谷・瀑布>中山七里
地点 下呂市金山町地蔵野
見学地点の位置・概要    国道41号は、飛騨金山から下呂までの約28kmにわたり中山七里と呼ばれている渓谷の中を走る。ただし、そのうちの下流部には大船渡ダムと下原ダムの2つのダム湖があり、その部分の渓谷は水没した状態にある。それらの間に挟まれ、水没を免れて岩盤が露出している部分が釜ヶ渕と呼ばれている渓谷である。国道41号を北進して下原発電所を過ぎると右手に飛騨川に架かる吊り橋があり、そこより上流側で渓谷の景観がみられる。
見学地点の解説    飛騨金山付近を除いて、中山七里の大部分には濃飛流紋岩を構成する溶結凝灰岩が分布しており、それらを飛騨川が深く削り込んだことでいくつかの景勝地を作り上げている。釜ヶ渕は、NOHI-3に属する金山火山灰流シートが浸食されて作られた渓谷である。釜ヶ渕の“釡”は甌穴を意味し、いずれも堅硬な溶結凝灰岩に形成されたもので、「中切地蔵の甌穴群」としても知られている。その中に動物の牙に似た形をした“牙岩”と名付けられた岩が見られ、その頂部にあたる位置にみごとに甌穴が形成れている。
ジオの視点    濃飛流紋岩の溶結凝灰岩が分布する地域につくられる渓谷の景観は、均質な岩石が削られることで生まれるため、全体に滑らかで、やわらかい印象を受ける。それに対して、同じ飛騨川が作る渓谷として下流の飛水峡があり、そこには美濃帯堆積岩類のチャートや砂岩が分布する。そこでは硬さの異なる岩石が層状に分布することもあり、鋭利な印象を受ける。浸食される岩石の性質や産状により景観の趣きが異なる。
写真 釡ヶ渕
(撮影:小井土由光)
写真 釡ヶ渕の牙岩(頂部に甌穴がある)
(撮影:小井土由光)
溶結凝灰岩
火砕流によりもたらされた堆積物が溶結作用を受けると、その程度により強溶結、弱溶結、非溶結凝灰岩となり、一般には強溶結凝灰岩をさしていう。おもに火山灰が集まって形成された岩石ではあるが、強く圧密化した岩石となり、きわめて堅硬な岩石となる。
金山火山灰流シート
濃飛流紋岩のNOHI-3の最上部層をなし、岩体南西部においては飛騨川・白川流域から北方へ佐見川上流域、飛騨川流域~八尾山周辺地域、土京(どきょう)川上流域などに比較的まとまって分布し、岩体南東部においては長野県南木曽町柿其(かきぞれ)川流域から北西方へ下呂市小坂町若栃谷流域までの約 35 ㎞の範囲に帯状に分布する。層厚は最大で約500mである。斜長石の結晶片を多量に含む流紋デイサイト質の溶結凝灰岩からなり、角礫岩層や細粒凝灰岩層をともなう。斜長石のほかに苦鉄質鉱物(角閃石・黒雲母・輝石?)も多く含まれ、粗粒の石英結晶片(径4~5㎜)が散在し、径0.5㎜以下の細かい結晶片を多く含むことを特徴とする。一般に径3~4㎝の本質岩片が多く含まれ、その中に径2~3㎜の斜長石斑晶を多く含む。美濃帯堆積岩類に由来する石質岩片を普遍的に含む。分布域の北縁部で土京(どきょう)流紋デイサイト質貫入岩、南部の飛騨川流域で下油井(しもゆい)流紋デイサイト質貫入岩に貫かれ、そこで層厚が厚くなることから、両地域に給源があった可能性が大きいと考えられている。
甌穴
河床や河岸の表面が堅硬な岩石でできている場合に、そこに割れ目などの弱い部分があると浸食されて凹みを作り、その中に礫が入ると渦流によって礫が回転して円形の穴に拡大していくことで形成される。堅硬な岩石であればその種類は問わず形成され、国指定の天然記念物「飛水峡の甌穴群」は美濃帯堆積岩類のチャートがえぐられている。
飛水峡
白川町白川口付近から七宗町上麻生に至る飛騨川沿いに約12kmにわたり続く断崖の渓谷で、美濃帯堆積岩類のおもにチャートと砂岩からなる岩盤の中を飛騨川が深く下刻して流れている。そのうち下流部の2kmほどの区間は「ロックガーデン」と呼ばれ、流路の両側にチャートの岩盤が段丘状に広がり、そこに1000個近くあるといわれる甌穴群が形成されており、『飛水峡の甌穴群』として国の天然記念物に指定さている。なお、飛水峡の上流部にあたる上麻生ダム付近で1968(昭43)年に飛騨川バス転落事故が起きている。
美濃帯堆積岩類
美濃帯は、飛騨外縁帯の南側にあってかなり幅広く分布する地質帯で、岐阜県内でも広範囲にわたる地域を占める。そこは、古生代石炭紀から中生代白亜紀最前期にかけての時期にチャート・石灰岩・砂岩・泥岩・礫岩などの海底に堆積した堆積岩類と海底に噴出した緑色岩(玄武岩質火山岩類)でおもに構成されている。下図に示すように、海洋プレートの上に噴出した海洋プレートの上に噴出した玄武岩質火山岩類は海底や火山島(海山)を形成して、その上にチャートや石灰岩・珪質泥岩などを徐々に堆積させながら大陸へ向かって年間数cmほどの速さで移動していく。海洋プレートは海溝部で大陸の下へ沈み込んでいくが、堆積物はいっしょに沈み込むことができず、はぎ取られたり、大陸側から運び込まれた砂岩・泥岩などとともに大陸側へ押し付けられ、混じり合って複合体(コンプレックス)を作りあげていく。こうした作用を付加作用といい、それにより形成された堆積物は付加体堆積物と呼ばれ、これまでそれらを総称して「美濃帯中・古生層」、「美濃帯中生層」、「美濃帯堆積岩コンプレックス」などといろいろな表現で呼ばれてきたが、ここではこれらを「美濃帯堆積岩類」と呼ぶ。それらは、それまで順に重なっていた地層が付加作用にともなって低角の断層を境にして屋根瓦のように繰り返して覆うように重なったり、複雑に混じりあったメランジュと呼ばれる地質体を構成し、整然とした地層として順番に連続して重なるようなことがほとんどない。そのため全域にわたり個々の地層名を付して表現することがむずかしいため、ここでは構成岩石の種類(岩相)によって表現する。これらの構成岩石は単独でも複数の組合せでもある程度の大きさを持つ地質体を形成しており、その大きさはcmオーダーの礫からkmオーダーの岩体までさまざまである。これらは岩相、形成時期、形成過程などの類似性から複数の地質ユニットに区分され、ユニット間は衝上断層で接することが多いが、その区分による表現はここでは用いない。
地質年代