項目 屏風岩 びょうぶいわ
関連項目 事項解説>景勝地・景観>渓谷・瀑布>中山七里
地点 下呂市門原(かどはら)
見学地点の位置・概要    中山七里の中ほどにあたる下呂市保井戸は、渓谷としては比較的開けた扇状地をなす地形の場所にあり、ここから濃飛横断自動車道として馬瀬(まぜ)川方面へささゆりトンネル(国道256号)が貫かれている。国道41号を北上して、保井戸を過ぎてすぐ左手に国道より一段低い位置に旧道が残されており、そこに小さなトンネル(門原トンネル)がある。その付近から正面に見える巨大な岩壁が屏風岩である。
見学地点の解説    巨大な岩壁はNOHI-4に属する高樽火山灰流シート溶結凝灰岩からなり、縦方向に見られる割れ目は高温の火砕流が堆積後に冷えていく過程で体積が収縮してできる柱状節理である。この岩石は強く溶結作用を受けてかなり均質で厚い堆積物を形成していることもあり、しばしば大規模な柱状節理を形成することがある。屏風岩は遠望するだけとなるが、門原トンネルから少し屏風岩へ向かって歩くと、屏風岩と同じ柱状節理が国道脇でまじかに観察できる。
ジオの視点    この大岩壁は、眺める上では景勝地となるが、険しい飛騨川沿いの街道にとっては交通の難所であった。実際にこの付近では、かつては道がきわめて狭く、飛騨川への転落事故が絶えなかった場所であった。旧道の門原トンネルはその改良工事として1916(大6)年に高樽火山灰流シートを掘削して完成した岐阜県下で最初の道路トンネルであり、これにより難所が解消されたとされている。
写真 屏風岩の景観(左手前のガードレールの下に門原トンネルがある)
(撮影:小井土由光)
写真 門原トンネル
(撮影:小井土由光)
高樽火山灰流シート
濃飛流紋岩の岩体南部を除くかなり広範囲にほぼ連続して分布し、NOHI-4の主体をなす火山灰流シートである。層厚は約700mである。全体にきわめて均質な流紋岩質の溶結凝灰岩からなり、径2㎜前後の自形性のよい石英結晶を多量に含むこと、基質中に細かな結晶片をあまりともなわず、組成のわりに苦鉄質鉱物(角閃石・黒雲母・不透明鉱物)と斜長石を多く含むことを特徴とする。長径5㎝前後の本質岩片を多量に含み、しばしば明瞭なユータキサイト構造を示す。石質岩片をほとんど含まない。
溶結凝灰岩
火砕流によりもたらされた堆積物が溶結作用を受けると、その程度により強溶結、弱溶結、非溶結凝灰岩となり、一般には強溶結凝灰岩をさしていう。おもに火山灰が集まって形成された岩石ではあるが、強く圧密化した岩石となり、きわめて堅硬な岩石となる。
火砕流
火山噴火において噴煙と同じものが溶岩のように地面に沿って流れる現象である。噴煙の中には火山灰(ガラス片)のほかにマグマのかけらに相当する軽石や噴火の際に取り込まれる既存の岩石などが入っており、それらの固体をまとめて火山砕屑物といい、それらが火山ガス(ほとんど水蒸気)と混ざった状態で地表面に沿って流れる現象である。これによってもたらされた堆積物を火砕流堆積物という。火砕流はきわめて流動性に富む状態で運ばれるために、高温状態のまま高速で運ばれることになり、溶岩流などの噴火現象に比べるとはるかに危険な現象と理解しておかなければならない。
溶結作用
火砕流は高温状態のまま高速で運ばれるため、堆積した後も堆積物の主体を占める火山灰(ガラス片)はまだ熱く、容易に変形しやすい状態におかれている。その堆積物が厚い場合には自重で圧縮されていくため、隙間を埋めていた火山ガスが抜けていき、火山灰にも力がかかり引き伸ばされて密着していく。こうして圧密化される現象をいう。この現象はまだ熱いうちに自重がかかることで起きるから、地面に接している基底部のような堆積物がすぐに冷やされてしまう部分や自重のかからない堆積物上部では起きにくい。

地質年代